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津地方裁判所 平成9年(ワ)58号 判決 1998年4月03日

《住所略》

原告

甲野花子

右訴訟代理人弁護士

村田正人

石坂俊雄

福井正明

伊藤誠基

《住所略》

被告

甲野一郎

《住所略》

被告

甲野二郎

《住所略》

被告

甲野三郎

被告3名訴訟代理人弁護士

降籏道男

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、株式会社川口組に対し、連帯して、金2500万円及びこれに対する平成2年7月31日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、会社の株主が、取締役に対し、違法に退職金の支払を受けたとして、商法266条1項5号により、会社に代位して損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  訴外株式会社川口組は、建築工事等を営む会社である。

2  原告は、川口組の株主である。

3  被告らは、川口組の取締役である。

4  被告らは、川口組の前代表取締役である甲野太郎が平成元年11月10日死亡したことにより、同人の相続人として、甲野太郎の退職慰労金名目に川口組から2500万円を支給させることを企図し、平成元年12月10日ころ、取締役会において、甲野太郎の退職金支払額を2500万円とし、被告一郎に900万円、被告二郎に800万円、被告三郎に800万円を支払う旨決定し、平成2年4月ころ、川口組から各金員の支払を受けた。

原告は、甲野太郎の妻であるが、株主総会の通知を受けたこともない。

5  川口組の定款では、退職役員の退職慰労金は株主総会の決議をもって定めることになっているが、役員の死亡に伴う退職金の規定はない。

6  被告らは、株主総会を招集せず、被告ら3人だけの取締役会だけで退職金の支給を決定し、実行した。

二  争点

1  取締役会の決議の効力

(被告ら)

被告らは、発行株式の3分の2を超える株式を保有しているので、株主総会の決議を経たのと同様である。原告の本訴請求は株主代表訴訟の趣旨目的に反し、権利の濫用である。

死亡役員の退職金については、取締役会の決議だけで決定することができると解することができる。

(原告)

取締役会の決議のみによって退職金を支給することはできない。被告らの行為は、商法及び定款に違反し、不法行為である。

2  損害の賠償

(被告ら)

被告らは、平成9年6月9日、川口組に対し、被告一郎が900万円、被告二郎が800万円、被告三郎が800万円の合計2500万円を返済したので、同社の損害は全額弁償された。

(原告)

被告らは川口組から2500万円を借り受けたとしてこれをもって損害賠償に充当したとするものであるが、現実的な弁償をしたのではないから、同社が一族の閉鎖会社であることに照らしても、損害の填補とはならない。

第三  当裁判所の判断

一  川口組の定款によれば、退職役員の退職慰労金の支給は株主総会の決議をもって定める旨規定されているが、この規定は死亡役員に対する退職慰労金の支給にも準用されるものと解するのが相当である。そうすれば、本件退職慰労金の支給は株主総会の決議を経ていないのであるから、定款に違反して違法である。取締役会の決議をもって株主総会の決議に代えることは許されないものである。

したがって、川口組は被告らの行為により2500万円の損害を受けたことになる。

二  そこで、証拠(甲六、乙一ないし三、四の1ないし3、五ないし一一、一二の1・2、一三)によれば、被告らは、取締役会の決議を経て、平成9年6月9日ころ、被告一郎が900万円、被告二郎が800万円、被告三郎が800万円の合計2500万円を川口組からそれぞれ借り受け、その全額を本件損害金の弁償として同社に弁済したこと、右借入金については、金銭消費貸借契約書が作成され、同社の決算報告書や帳簿に登載されていること、その後、被告らは、右借入債務を毎月分割返済していることの各事実が認められる。

三  右事実によれば、被告らは、川口組から金員を借り入れ、それをもって本件損害を填補したものである。現実には現金の授受が存在しないが、右借入れは消費貸借契約として有効であり、その借入債務は会社の会計上明確に処理され、今後分割弁済される見込みであるから、右借入金をもってした損害の弁償は有効な賠償であるというべきである。

そうすれば、本件損害は既に填補されたから、原告の本訴請求は理由がない。

(裁判官 山川悦男)

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